阿弖流為top |
[阿弖流為]お話 |
サイト族とは: 天空の神々の中で異種扱いされ差別されてきた種族。怒りの感情が高まると目が赤く輝き背中から炎のような翼が出る。 天空から地上に追放されたサタンの魔力が人間の遺伝子から遺伝子へと伝わり覚醒する。また神の王デオバが放った光に当り神力を得たクリスタル王国の女王の子孫達も時々サイト族が現れる。 |
<登場人物> | |
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アテルイ | この男がいる限りエミシが屈する事はない.。陸奥の英雄!サタンの遺伝子を受け継ぐサイト族 |
モレ | 黒石の長。冷静沈着、頭脳明晰。阿弖流為の名参謀。 |
イサシコ | 陽気な熱血漢。江刺の長としての器も優れる。 |
藤原水盛 | 藤原緒継のいとこ。朝廷側にいながらもエミシ達の魅了されエミシの味方となる。 |
アザマロ | 伝説のエミシだが朝廷に捕らえられ改造手術をされエミシの輪を乱れさせる役割をさせられる。 |
鬼山 | 朝廷側の武術の指南役だったがエミシの妻をめとり子を成す。が朝廷側の策略で妻子を殺され朝廷と戦う為、鬼となる。田村麻呂の親友。 |
ヌカ | 盲目の女伝魂師。アラハバキの神と融合し未来を見たり死人の魂を伝えたりする。 |
坂上田村麻呂 | 朝廷軍の英雄で征夷大将軍。神王デオバの遺伝子を受け継ぐサイト族。 |
序章: そもそも大和朝廷が都から遠く、獣の住む魔の世界と思われていた陸奥に興味を示したのは彼らがすすめる仏教による国家支配が背景にある。巨大な仏像を作る為には多くの資源が必要で特に金は当時から高価かつ希少な存在として海を渡った唐の国からの輸入に頼るしかない状態であった。 ところが大和朝廷が魔物が住むだの言い近付こうとしなかった辺鄙な北の地、陸奥に金山が発見された。 時の帝はそれを喜び年号を宝亀と改名するほどであった。 はなから征服する事しか考えていない朝廷は力による征服を試みる。 宝亀7年(778年)朝廷軍の陸奥への侵攻始まる。 陸奥は遠い昔から朝廷が獣と呼び蔑んでいたエミシと呼ばれる人々が生活していた。 小さな部族がいくつか点在する大きな国、陸奥。エミシ達はバラバラでまとまりがなく、朝廷に服従するものも多数いたが抗戦するものとて少人数でただ暴れ回るだけの戦略もなにもない戦いをしていた。 しかし事件が起きる。宝亀11年(780年)鮮麻呂(あざまろ)の乱がそれである。 朝廷側がエミシ達の侵攻拠点としていた伊治(これはる)城に務めていた伊治エミシの長、鮮麻呂。 彼は朝廷に服従し官位も得ていたが朝廷側の官僚である紀広純(きのひろずみ)と道嶋王楯(みちしまのおうだて)を殺害する。 鮮麻呂は都へ連れていかれエミシをかく乱する為の改造手術を受けてしまうのだが、彼の行なった見事な戦略は都の貴族を恐れさせた。 エミシ恐るべしとの印象を持った朝廷はついに5万の大軍を陸奥へ差し向ける。 延暦8年(789年)の事である。 この時陸奥に1人の男が現れた。 胆沢の長である、阿弖流為(あてるい)である。 軍師、母礼(もれ)の緻密な戦略と伊佐西古(いさしこ)らの勇猛果敢な働きで人数では朝廷軍の数十分の1のエミシ軍は大勝利を納める。 その時に阿弖流為はエミシを未来へ導く英雄として君臨する実績を作る。 朝廷は体制を入れ替え5年後にまた大軍を率い攻撃機を仕掛けるがまたもエミシ軍の勝利。 その8年後エミシたちはついに征夷大将軍坂上田村麻呂率いる10万の兵を迎える事になる。 1 ヒノカミ、ヤマノカミ: 延歴20年(801)春、藤原水盛は伊勢から名取りへと向かう船上にいた。従兄弟である参議の藤原緒継の密命を受けエミシの戦い、陸奥の実情を詳細に報告することだった。もろん朝廷には内密に。 「しかしエミシは強い!」水盛は晴れやかな顔を青い空に向けた。大軍を相手に少人数で真っ向から対抗する彼らの戦略の緻密さと大胆さは軍事学を学ぶ水盛を唸らせた。またエミシの人達の心の暖かさに触れ、間違っているのは朝廷ではないか?エミシたちはただそこで生活したいだけで争いなど好んでない!水盛が憤りを感じた頃、船が朝廷軍で賑わう名取の港に着いた。 水盛は思った。これがおそらく大和と陸奥の最後の戦となるだろう。 そしてあの男の事を思った。 (阿弖流為よ、生き続けてくれ…) 2 ミチノク: エミシと呼ばれる人々がいつどこからこの北の地で生活するようになったのかは定かではない。しかし大和朝廷が築かれる遥か前から生活していた事は確かだ。大陸から海を渡りモンゴルや欧州から多様な民族が住み着いた事は想像される。エミシたちの多くは大和の人間の体格より2、3倍は大きく、彫の深い顔をしている事を考えても欧州から東を目差した人々がアジアで混血し日本に渡って来た事が考えられる。 陸奥にはそこに政治犯として都から追放された物部氏のような人々も加わる。 エミシたちはいろいろな背景を持つ多民族の寄せ集めにすぎず小競り合いを繰り返して来た過去もあり一つにまとまることなくいた。 だが数十年に一度そのエミシの中でサイトと呼ばれる子供が産まれる事があった。 その子は感情が高まると瞳が赤く輝き背中から炎のような翼が飛び出し、天と地を自由に動かせる力を秘めていた。 その子の出現は不吉を意味するがその災いを取り除く力も持ち合わせていた。 それが胆沢の長の息子、アテルイだった。 アテルイの全てを受け入れ感謝する気持ちに触れた人々はそれまで朝廷に加わり浮囚と差別されていたものまで朝廷に反旗を翻し、ミチノクは一つになった。 道の奥には夢がある…。 アテルイたちは数と力で制圧する大和朝廷に地の利と勇敢さで対抗した。 戦いはすでに20年を超えている。いくら死んでも代わりのいる朝廷軍と違いエミシたち命の代わりはいなかった。しかし長い戦いの中彼らは疲れるどころか楽しんでいるようにも見えた。朝廷が獣だと思っていたエミシたちは強く利口だった。それにあたふたしてわざわざこの北の地まで重い鎧を担いでくる兵士たちを滑稽に思っていた。 「我らが戦いを仕掛けるでもなく向こうから勝手に来て負けていくなぞ、アホじゃ!」 酒に酔いながらイサシコが笑い飛ばした。各部族の長が集まり定例の議会を開いた後の宴会の席でだ。皆の笑いの中、アテルイとモレは笑ってはいなかった。 「だが田村麻呂は今までのようにいかないぞ!」 エミシの采配を背負うモレが厳しい顔で言いこの度の戦いでの朝廷側の総指揮官の名を上げた。田村麻呂の名は陸奥まで聞こえてきていた。 「やつはサイトかもしれんな」アテルイがつぶやいた。 3 エミシ: サイトの子は産まれた時から特別な力を持っていた。元来気味悪がられ部族の中でも差別される存在であった。感情が押さえられなくなると瞳が赤く輝き、炎のような羽が生えた。 アテルイは自分の存在はいずれエミシの為にはならないと思っていた。突然変異のような俺の力はいずれ平和が訪れた時に邪魔になるだろう。また気味悪がられるだけの存在となる。 水盛は、10万の兵だろうがアテルイ1人だけで倒す事ができると思っていた。そしてある時アテルイにその事を聞いた。 自由や平等の権利を力のみで勝ち取ってしまったら大和朝廷と同じ道を辿ってしまう。エミシは何も悪い事をしていない。胸をはって生きるべき存在。エミシ自身の気持ちや態度を向上させなければ意味がなくその努力を怠ってはいけない。アテルイはそう答えた。 なぜ我らは蔑まれる? ただ共に生き暮らしたいだけ アテルイはこの戦いで最後にしようと考えていた。この20年の間にエミシの未来を託せるもの達が育ってきた。彼らは謙虚さと誠実さそしてひたむきさを兼ね揃えていた。 女伝魂師ヌカの言葉によるとサイトの人間は人知れず消えて行っていると言う。回りの人間と違う自分に耐えられなくなるのだとアテルイは想像できた。 そして俺も消える時が来ている事を感じていた。 大和朝廷はアテルイさえ降伏すれば他のエミシ達には危害を加えないし今後陸奥に侵攻する事は止めると宣言してきた。 アテルイの皆を守ろうとする心を知る水盛は忠告した。朝廷の言う事を信用するなと。もはや水盛はエミシの一員となっていた。そしてこの地でエミシとして死ぬ覚悟であった。 アテルイは水盛に言った。俺には時々未来が見える。水盛の気持ちは嬉しいがお前は都へ帰れ、将来必ず己の志が伝わる時が来る。その為に生きろと。それがアテルイと交した最後の言葉だった。 4 アラハバキ: 白い雪が降り積もり静けさに支配される頃、 最後の戦いの前に、アテルイ、モレ、イサシコ、は盲目の伝魂師ヌカ(奴女)に連れられ生まれ育った山に来た。 そこで火を囲み清めの儀式を行なった。 死んで身体は地に還り魂は天へ昇り愛するこの地と愛する人を守り続ける。 エミシたちの生活を精神的に支えていたのはアラハバキの神の存在だった。 空であり川であり山であり、木々であり花であり。つまり全てのものに神が居て自分達を守ってくれていると信じていた。だからこそエミシの人達は自然を愛し守った。 空を見上げると眩しいほどの星が輝いている。アテルイは背中から翼を出すと悲しそうな顔を見せた。 人はなぜ争うのか?なぜ差別するのか?月明かりに照らされその翼が炎の影のように白い雪に写った。 我ら望む事はひとつ 自由なる地、求め戦う この戦いに朝廷側からエミシへと加わった男がいた。朝廷軍の武術の指南役をしていた鬼山だ。 特に槍を使わせたら大和一の腕の持ち主だった。時の征夷大将軍、坂上田村麻呂と親友であり、その穏やかな性格からも多くの弟子に慕われていた。 ある時、大和と陸奥の境界線上の山へ山菜をとりに来ていた鬼山は道に迷ってしまった。その時偶然、アテルイ達と遭遇してしまった。というか初めてエミシの人を見た。そしてアテルイ達は朝廷の人間と知っても優しく迎えてくれた。朝廷で話に聞いていた人間像とはまるで掛け離れていた。彼らは知識があり、心穏やかだった。 そして鬼山はアテルイのいとこであるエミシの女に惚れた。境界線上に家を建て密かに結婚し子供を作った。 だがそれを知った軍の指令部は田村麻呂には内密に妻と子供を殺し、それをアテルイ達エミシの仕業と思わせた。 鬼山にアテルイを殺させる計画の為、命を奪った。 鬼山は衝撃で逆上し怒りのはけ口をアテルイに求めた。すでに妻と子供の死を知っていたアテルイは黙って鬼山の攻撃を受け続けた。アテルイは傷付きぼろぼろになりながらも打たれ続けた。そして鬼山渾身の一撃をアテルイが胸で受け止めた時、鬼山は伝魂師ヌカの力で朝廷軍に殺された妻と子供の姿を見た。 鬼山はその場に膝から崩れ落ち泣いた。 しばらくして鬼山は立ち上がりアテルイに言った。 「俺をエミシ軍に加えてくれ」 鬼山は死に場を求め戦う鬼になった。 その様子を木の陰から見てる人物が居た。 伝説のエミシ、アザマロである。 実は鬼山の妻子をアテルイの仕業と思わせる偽装工作はアザマロがやった事だった。 彼は都で改造手術を受けエミシをかく乱させる為に陸奥へ戻されたのだった。 アテルイ達はアザマロが戻って来た時大歓迎して出迎えた。アザマロはエミシの英雄だった。 だがモレだけは冷静な目で見ていた。そしてアザマロも自分が何者なのかで苦しんでいた。 5 アテルイ: 小高い丘の上にいくつもの馬の足音が聞こえる。 そして騎乗するエミシ軍の勇姿が見える。彼らは眼下に広がる朝廷軍を見下ろしていた。 大和朝廷が威信をかけた兵団、その数10万。対するエミシ軍500。 しかしエミシ達は昂る事もなく恐れる事もなくただその時を待っていた。 そして春を迎えてまだ雪舞う中、大和朝廷とエミシの最後の戦いが始まった。 村を守るエミシの人達はアテルイたちと陸奥の未来を守る為に夜ながら踊り続けた。彼らはアテルイが投降すると言った時泣きながら止めた。 アテルイが投降すれば皆助かると言う事を知っていて余計止めさせた。わしらは浮囚でなく夷囚。自分達を助けたアテルイを死なせて生き残るとは、エミシが誇りを捨てたら生きていけんぞ。 エミシの皆も変わったもんだなぁ。大和朝廷の大軍と向き合いながらアテルイたちは陽気に笑った。 しかしむざむざ投降していかなくて良かった。アテルイは瞳を輝かせた。 このような相手と巡り合えるとはな!その瞳の先には敵の将、田村麻呂の姿があった。 アテルイと田村麻呂は互いに剣を交えながら互角の勝負をした。エミシたちはアテルイと互角の勝負をするものを始めてみた。2人の背中から出た翼が炎のように交じりあい龍のように天高く舞い上がった。 彼らは同じサイト族の遺伝子を継ぐ者達だった。アテルイは神の世界から追放されたサタンの、田村麻呂は神王デオバの遺伝子を継いでいた。 戦いは数日間に及んだ。もはやエミシ軍で残っているのはアテルイ、モレ、イサシコ、鬼山、アザマロの5人しかいなかった。 アテルイは決戦の前夜、胆沢の山に皆を集め言った。 この空はどこに続くのか? 目に写る雲は流れても 空はずっと果てしなく続いているのだろう 人は人、それが個性 私欲は翼を持たない 俺達はただ心のままを言葉にする 「もはや俺達が生きてこの山に戻って来る事はないだろう。」 「だがこれで終わりではなく我らの魂は千年後の陸奥でも生き続ける。そして守り続ける事だろう。」 側に、側にいるから、ずっと 愛する人守りたいから その言葉を聞きながらアザマロは涙が溢れた。 山の匂いが陸奥の風が彼の頬に触れる度、失っていた自分を取り戻した。 (そうだ、俺はエミシの中のエミシ、アザマロだ!) 朝になり朝廷軍は総攻撃をかけて来た、朝廷の軍は半分以下になっている。彼らも必死だった。 イサシコは最後まで明るかった。笑いながら大軍の中に消えて行った.。 自分を取り戻したアザマロは爆死した。彼の身体の中には爆薬が仕込まれてあった。 鬼山は田村麻呂に向かって行った。彼は死に場所を求めていた。妻子がいない今、親友の田村麻呂に討たれ死ぬ事だけが彼の望みだった。 そして望み通りになった。 アテルイと田村麻呂の勝負はつかなかった。しかしアテルイは自ら捕まった。そして戦いは終わった。 モレはアテルイと共に捕まり都へ護送された。 アテルイの刑を巡り藤原緒継だけは処刑に反対した。アテルイを陸奥を束ねる存在として使うべきと言う案だった。もちろん従兄弟の水盛がけしかけていた事であった。 だがアテルイとモレの処刑は行なわれた。田村麻呂は助命もかなわず落胆した。 都で藤原水盛は泣きながら2人がさらし首になっている河原に居た。だが不思議な事にその顔はアテルイとモレとは似ても似つかぬ顔だった。 その場にいた処刑場の役人の顔を見て驚いた。 モレではないか!その時水盛の背中でこう言った。あそこに首をさらしてる人間は都の盗賊達さ。 その声はアテルイ!だが振り向いてもアテルイの姿はなかった。代わりに伝魂師ヌカが手ぬぐいを差し出し言った。都の人間がエミシの首を見て泣いてたら変に思われますよ。うなずき、水盛は今一度大粒の涙を流した。それは歓喜の涙であった。 その少し後、陸奥でもアテルイたちが空に舞う龍のように空からかけ降りてまた去っていく風景が目撃された。 それは人々の夢と勇気になった。 陸奥はエミシは守られている、と。 6 カマヅカニハルガキタ: 藤原水盛は70過ぎまで生き大往生した。 彼の死後200年、水盛の子孫は陸奥の地に居た。そして天喜3年(1055)1人の男の子が産まれた。その子の瞳は時に赤く眩しく輝いた。 後の奥州藤原氏の祖、藤原清ひらである。藤原氏は1189年に源頼朝によって滅ぼされるまで栄華を誇った。 陸奥はアテルイたちが大和朝廷に立ち上がり戦い守ってから300年のあいだエミシたちによる繁栄を築いたのだった。 時は巡り巡る 悲しみ繰り替えし 誘うよ、遥かなる 生き落ちる大地の全てよ 一夜、人は終わる 始まりと言う名の空よ さあ!立ち上がれ!希望の為に! |